モードなムード(後編)
前編から1ヶ月も経っちゃいました、後編です。当初の予定より長くなってしまいましたが、7-12曲目も書くので気ままにお付き合いください。
7.MIDNIGNT JUNGLE
「オフサイドのホイッスル響いて容疑者の検証が始まる スタンドの兄ちゃんもこぞって責め立てるって何様」 #MMM_lyrics
鹿野さんの曲紹介には「ロカビリー風のガレージパンク」とある。また分からん単語が出てきた、ロカビリーってなんぞや。
ロカビリー:カントリー音楽、なかでも泥臭さのあるものをさすものとロックンロールが合体してロカビリーが生まれた。
なるほど、泥臭さね。確かにユニゾンの楽曲の中では 天国と地獄 と同じ部類の、ロック色を前面に押し出した曲である。ギターの歪み、シンプルなコード進行と展開。田淵さんのコーラスの声質が曲調に合っている。さらに特筆すべきはドラムの重さである。1音1音が超重量級の強さで打ち込まれていることによって、曲の迫力が増している。普通は強拍と弱拍があるものだが、この曲は全部が強拍なのではないかという勢いだ。
次に歌詞の話。
(Drink up? Tune up? MIDNIGHT JUNGLE!) /(Drunkard!!!)
珍しい。曲の始めや間奏に挟まったこういう英歌詞が歌詞カードに書かれているのはあまり見ない気がする。シュガーソングとビターステップ 然り、Own Civilization冒頭のnano-mile met 然り。そういえばこの曲は the pillows のオマージュらしいので、原曲との繋がりをはっきりさせてリスペクトを表しているのかもしれない。しかしDrunkardにびっくりマークが3個も付いているのを見た時には思わず笑ってしまった。ちなみに意味は、"飲んだくれ・大酒飲み" である。ここめちゃくちゃかっこよくて好き。
この曲も口が悪い。口の悪さを隠そうともしていない。例えば「調子こいたやつ端から 煉って千切って桜吹雪」…なんてものを桜吹雪にしてくれてるんだ。"練る"ではなく"煉る"を使っているのが気になって調べてみた。
「煉る」:「火を通してこね固める」という意。
「練る」:「しなやかで均質なものに仕上げる」という意で、転じて「さらによいものにするために内容を検討したり、手を加えたりする」の意。
さらに良いものにする気はないと。ただ千切るために煉るのか…怖い。
テキーラ!の低く唸る感じも好き。愛が深くて長くなってしまった。
8.フィクションフリーククライシス
「ドジョウの分際で したり顔で 最もそうな理由つけてんじゃねえよ」#MMM_lyrics
最初の数小節で「なんかフレデリックっぽい…」と思ったのだが、おそらくエッジの効いたギターとテクノ的なビートのせい。ベースとドラムが入ってくるともうユニゾンのリズムを感じる。マイナー調で始まる曲がサビでポップになるところは私も、おそらくファンも全会一致のお気に入りポイントです。突然のクラップもいいよね。
ところでこの曲、アルバムの中で一番クレイジーであることに異論がある人はいないだろう。田淵さんは実際にあるSF映画をイメージしたと言っていたが全くもって検討がつかない。そういやキャトルミューは後から盛り込んだと言ってたが意味は...
キャトルミューティレーションとは、動物の死体の一部が切り取られ、しかも血液がすっかりなくなるという異常な惨殺事件のこと。 宇宙人の仕業だなどと騒がれた。
へーここもSFにつながってくるのか。どういう生活したらこの単語を知る機会があって、しかも作曲途中に思いつくのか甚だ疑問だ。すげぇ。
他にも「自意識がクライシス迷子」や「ドジョウの分際で」などなどカオスな単語が盛りだくさんである。ドジョウについて連想したのは「柳の下のドジョウ/二匹目のドジョウ」という慣用句。ちなみに意味は「成功者の後釜を狙って作られたもので、(当人は成功すると思い込んでいるが)実際には成功しそうにないもの」である。これらを踏まえつつ歌詞カードを読んでみるのもまた面白い。
一見は曲のイメージに沿ってリズムが良い言葉を並べていっただけに思えるが、いくつかの言いたいことを隠し持つ曲なのかもしれない。「でもアナウンスじゃバカに―」からの変拍子だとか、そのあと「添加 添加―」で歌のリズムは同じなのにウラのベースやドラムで遊びを利かせているところ好き。
「ここから運命論は乱されて 踏み入れたやつから順々にシードを取る冷徹な仕組み」 #MMM_lyrics
フィクションフリーククライシスの終わり方は、この曲のために作られたものだと思う。(追記: これは実際にそうらしい、レジーさんのブログを読んで驚いた。)
突然全ての音がなくなって一瞬の静寂、音の余韻が残る中で息を吸う音が聴こえ、高らかに空気を掴む。 めちゃくちゃ秀逸。まるで入りに命を賭けているかのような緊張感が好き。
この曲を初めて聞いたのは10月31日のラジオである。こんなにダンサブルでポップな曲調であるのに、2番手前で突如かっこいいラップが始まり小さくパニックに陥る。爽やか曲だと思ってたらかっこいい曲だったの君。雰囲気がガラリと変わったと思ったら、何事もなかったかのように2番に入った。あの衝撃は忘れない。
そして歌詞は「誠心粛々誠意の反復で」や「意気覇気生気消沈なムード」などとユニゾン節が効いた仕上がりとなっている。「場違い」や「げに」でニヤけたのは私だけでしょうか。
Invisible Sensationといえば真緑のジャケットのイメージがあるけど、あのベートーベンにはどのような意味があったのだろう。ベートーベンは難聴になってからも有名な楽曲たちを生み出したことで有名である。それにしても、「感覚」というのはもともと「目に見えない」ものなのでは…という気がしないでもない。Sensationを感覚と訳すか「気持ち」と訳すかによっても変わってくる。まあ全てを理解することも良いが、謎が残っているのも曲に幅が出て楽しい。
10.夢が覚めたら(at that river)
「さよなら街灯り、ずっと愛してたよ スカイブルーの渋滞に巻き込まれて 琥珀色の夢はちょっとくすんじゃったよ 最初から輝いちゃいなかった」 #MMM_lyrics
「"スゥ"さよなら街灯り」と息を吸い込む音から始まるゆったりな曲。曲始めで右耳ギター左耳ボーカルと耳がとても幸せ。
インタビューで『勝手に主題歌シリーズ』と言っていたけど、何を読んだんでしょうね。各所で辻村深月さんの小説の話をしているから関係あるのだろうか。本人たちも言っているように歌詞ありきで情景がまざまざと浮かぶような曲だが、ここで「明かり」ではなく「灯り」にしたのは街灯をイメージさせたり印象をやわらかくする狙いがあったのかなと思ったり。1つ1つの言葉選びがとても緻密である。
「ネオン消えて──」からマイナー調になるところや、シンプルな歌詞だけど綺麗になりすぎない曲調が好き。これはMUSICAで話していた「ドラムは武骨に、ギターやミックスはごちゃっとさせた」というこだわりが要因なのかもしれない。本来ラブソングが持つ甘さを中和して、ユニゾン流のほんのりラブソングに仕上がっている。ところで、タイトルにくっついている(at that river)が永遠の謎なんですが、誰か解けた方いたら教えてください。
「焦燥でこの呼吸を汚しちゃっても eyes to eyesもう一度やってみよう、you're sweet!」 #MMM_lyrics
BPMの速さが際立ち、思わず踊り出しそうになる曲。史上最速のテンポや、3拍子ではなく4拍子にしたことで、隙間という隙間を埋めたのに爽やかで疾走感のある作りになっている。
この曲の面白いところは、言葉の韻や歌詞の遊びである。前者は至る所にあって紹介するとキリがないので、探してみてね。ここでは歌詞の遊びについて。
1 beat、賛美、火をつけて!/わびさび 気をつけて!
この部分は歌詞カード見るまで同じだと思っていた。あと、各所に出てくる「有史以来」は「you see right」に聴こえた。…そこはかとなく悔しいのはなぜ。
どこかで田淵さんが言っていた、『主人公の名前に聴こえる歌詞』も見つけた。
片足ずつでいい キャンバスにta-ta-la-ta踏み込んだら
富士田 多々良(ふじた たたら)さんか。なるほど。
そしてもはやこのブログおなじみになってきた、漢字を調べてみようのコーナー。(コーナー名募集中) 今回は想像はつくが詳しく知らない、「嗤う」の漢字が気になった。
笑う は、喜びや楽しさの感情表現。
嗤う は、人をバカにしたような、せせらわらうような感じ
こだわりが見える。気付くか気付かないか程度のこだわりは粋です。
ちなみにもう一つ歌詞の話、「知りたいけど4年ぐらいは後でもいいか」がCDの帯にある「4年後もどうせ君が好き」という言葉に繋がるのがめちゃくちゃ好き。
12.君の瞳に恋してない
「後悔したまま死ぬかもしれないし 保証なんかどうせ役立たず 甘い一瞬に騙されて?」 #MMM_lyrics
もう一つのリード曲であり、ホーンセクションを取り入れたスカ曲。東京スカパラダイスオーケストラを聴きかじったときに、スカについては調べたことがある。
'60年代のジャマイカでリズム&ブルースの影響を受けて生まれた音楽スタイル。2/4拍子が基調でウラを強調したリズム。
要するに裏打ちが強調されている音楽である。ライブで音楽を聴くときは表ノリと裏ノリに分けられるが、私はどんな曲でも圧倒的に後者なのでこういう曲はますます嬉しい。
この曲のMVめちゃくちゃ良いですよね。OK go のようなワンカット撮影だと言っていたのでこれも調べてみたのだがリンクを載せたこの曲、『桜のあと』のMVと撮影場所同じ。この話は既出のような気もするけど。『OK Go - I Won't Let You Down - Official Video - YouTube』
冒頭で風の音がする。ハモリがいつもより分厚い。歪みが少ない。アディショナルプレイヤーを入れたことによる影響もいろいろ見られる。曲調はポップに振り切れているのに、歌詞が翳っているのも面白い。間違いなく物好きが揺さぶられる1曲である。が、どれだけほかの奏者を入れてもユニゾンの曲であることに変わりは無いという不思議な安心感がある。何より演奏しているメンバーがとても楽しそうで、見ているこっちも幸せになる。またライブで見たい。
ただの感想を書き連ねてきましたが、ここで終わりです。お付き合い頂いた方ありがとうございました。UNISON SQUARE GARDENの次の一手がとても楽しみ。